安倍政権は日本の憲政史上でも類を見ない特異な政権と言えると思います。
特に他の政権と違うと思われるのが、その独裁的に権力が集中した政権と言えるのではないでしょうか。
しかし、その独裁的に集中した権力を行使できた過去7年間で行った政治は、新自由主義的政策を遂行したことによる、国家の弱体化を完成させたと言えます。
しかし、安倍政権は保守の最後の砦というか、保守の希望的な立ち位置だったはずなのですが、なぜか新自由主義によって国家の解体を進める政策を推し進めてしまったのです。
なぜこんなことになってしまったのかを中野剛志氏の「保守とは何だろうか (NHK出版新書)」を参考に以下のポイントについて考えてみようと思います。
- 保守とは何か
- 新自由主義とは何か
- 保守派の新自由主義者
- 新自由主義の影響
興味のある方はぜひ読んでみて下さい。
保守とは何か
保守という言葉を聞くと、日本では懐古主義的で伝統を重んじ、極端な話では大日本帝国を理想の姿とした国家という印象を持っているかもしれません。
しかし、保守とは
歴史的に形成された伝統的な共同体や持続的な人間関係、安定した社会秩序を尊重してきた。
もっと簡単に言うと「普通の日常が普通に続く幸せな毎日を送ることができるよう努める」ことこそが保守の本分と言えるかもしれません。
次に説明する新自由主義とは違い、個人の自由は尊重しつつ、自由はこれまで積み上げてきた文化的環境や安定した社会においてこそ意味を持つと考えるのです。
しかしながら、現代の日本国家は欧米諸国と同様に新自由主義を保守する国家となりはててしまっているようなのです。
新自由主義を保守する国家となってしまった一つの大きな理由はやはり大東亜戦争の敗戦に有ったと考えられるのですが、実際のところはそうでもないようなのです。
そこで、なぜこのような状態に陥ってしまったのかを考えるために、新自由主義とは何かについて簡単に説明してみましょう。
新自由主義とは何か
新自由主義の教祖と言えばミルトン・フリードマンですが、彼の新自由主義論を簡単に説明すると、
自由市場こそが、資源を最も効率的に分配し、経済厚生を増大する最良の手段である
というものです。
つまり「市場が全て、経済が全て」であり「市場を規制し自由な経済活動を邪魔する政府は存在価値がない」という考え方ですね。
そして、この教義を現実に当てはめるために「小さな政府化」「財政均衡(緊縮財政)」「規制緩和」や「民営化」そして「グローバル化」という政策を推し進めるのです。
新自由主義という、言ってみればウイルスのような教義が世界に与えた悪影響は、計り知れないものがあります。
新自由主義がはびこることで、起きたのが貧富の差の拡大ですね。
現にアメリカでは99%の富を1%の人間が持っているという始末ですし、イギリスでも労働者への手厚い保護が失われることで貧困に陥る過程が増えました。
極めつけはEUの統合です。
一見平和の象徴のようなEUの統合ですが、現実はドイツやフランスによるギリシャやイタリア、スペインからの搾取になっているのです。
挙句の果てに、国家破産の危機ということでEUやIMFから緊縮財政を強要され、犠牲になった国民がどれだけいたのでしょうか。
新自由主義によってもたらされるもの、それは雇用を不安定化させる企業の合理化であり、家族や地域の共同体を棄損させる行き過ぎた個人の選択の自由であり、孤独な個人を生み出す市場主導の労働者の移動なのです。
そしてこの、新自由主義が行きついた先はというと、1929年の世界大恐慌であり、2008年のリーマンショックであり、2009年のギリシャ危機だったのです。
保守派の新自由主義者たち
保守と新自由主義は本来相容れないもののはずなのですが、なぜか新自由主義的な政策を推し進めるのはいわゆる保守派と言われていた人達です。
代表的なところではロナルド・レーガン、マーガレット・サッチャー、中曽根康弘等、保守派と言われた政治家ですね。
また最近では、安倍晋三も保守派の政治家として新自由主義的な改革を推し進めてきました。
なぜこのようないわゆるねじれが起きているのでしょうか。
中野剛志氏はその著書「保守とは何だろうか」の中で、
「彼らが新自由主義に固執しているのは、彼らが20代、30代を過ごした頃のにその影響を受けたからなのである。」
と述べている。
そこで、保守主義者として新自由主義的改革を推し進めた結構な政治家がどのような時代背景で生まれたのかを調べてみました。
ロナルド・レーガン
ロナルド・レーガンはアメリカの第40代大統領で東西冷戦をアメリカの勝利に導いた大統領ですね。
レーガンは、始めはリベラリストとして政治家のキャリアをスタートさせたとのことですが、のちに保守主義者に転向しています。
おそらく空気を読むのがうまかったと思うのですが、レーガンが政治家としてのキャリアを始めた当初はアメリカで「赤狩り」つまり共産党弾圧が進行中。
徹底的に国家が国民を管理する共産主義へとの戦いの過程で、レーガンの新自由主義的な政治スタイルが、確立されていったのではないかと思うのです。
レーガンの新自由主義的な政治スタイルを見ることができるのは、カリフォルニア州知事時代が最初のようです。
特に有名なのは、バイクのヘルメット着用義務化法案が州議会で通過したと「ヘルメットを着用しないのは個人の自由、それに政府は関与する必要はない」というような趣旨で法案の取り消しを行っています。
大統領就任後は自由貿易を押しすすめ、それが今日のグローバリズムの始まりと言ってもいでしょう。
マーガレット・サッチャー
マーガレット・サッチャーはレーガンとは違い生粋の保守主義者でした。
その源流はメソジストの敬虔な信徒である家庭で受けた教育から、新自由主義に傾倒しやすい考えを持っていったのでしょう。
特に父親には「質素倹約」「自己責任・自助努力」ということを常にお知えこまれたようです。
オックスフォード大学ではフリードリッヒ・ハイエクの経済学から新自由主義に傾倒していったようです。
英国初の女性首相になってからは、ご存知の通り規制緩和や国有企業の民営化などの新自由主義的な政策を進めていったのです。
マーガレットサッチャーが行った改革も、現代の新自由主義の基になっていますね。
中曽根康弘
近年の日本の保守政治家で、新自由主義者と言えば中曽根康弘を措いて他にははいないでしょう(安倍晋三は保守ではありません)。
中曽根康弘は、大東亜戦争で実戦を経験した最後の首相でしたが、敗戦後に内務省に復帰しアメリカとの折衝を担当していました。
これは推測にすぎませんが、その時に受けたアメリカの影響が中曽根康弘の政治姿勢を形作ったのではないでしょうか。
後に中曽根は、前総理大臣鈴木善幸の行政改革路線を引き継ぐ形で、国鉄(現JR)、日本専売公社(現JT)、日本電信電話公社(現NTT)を民営化したのです。
本当に簡単にではありますが、保守派と呼ばれている政治家たちがいかに新自由主義の影響を受けているかを感覚的に関jることができたと思います。
もう少し、深堀して各政治家の思想形成を調べることができればいいのですが。
新自由主義の影響
成功者から学びたいと思うのは、人間の学習本能と言ってもいいでしょう。
しかし学ぶ対象の政治姿勢が新自由主義だったなら、そしてそれが政治という面において成功してきたのならば、なおさら新自由主義からは抜けだすことは難しい。
日本においても世界においても、新自由主義の成功体験から抜けだすことは非常に難しくなっていると考えられるのです。
この、保守にとっての負のループを断ち切るためにするべきこととは、商業と学芸のバランスを守ろうと努力することであると、中野剛志氏は著書の中で述べています。
商業とはもちろん経済活動であり、既存の制度を超えて社会を変動させようとする力であり、学芸とは社会を安定化・制度化させようとして働く力。
このどちらかが過剰になりすぎないように、バランスを取るべく努力することが保守の取るべき態度なのです。
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