MMT理論(現代貨幣理論)は世界中の著名な経済学者たちによって公の場で批判されていましたが、世界的なコロナ禍の中で財政出動を後押しする理論となってきたように思います。
以前は以下のリンクのように、イエレン前米連邦準備制度理事会(FRB)議長が「MMTに沿った政策を行うことでインフレリスクが高まる懸念がある」という記事が出回るくらい、MMTへの理解が足りない状況でした。
でも実際に現代貨幣理論(MMT)に沿った政策を行うと、インフレになっちゃうのでしょうか。
イエレンさんも次期アメリカの財務長官になることでバイデン新大統領の1.9兆ドルの財政支出を支えることになります。
ということは、イエレン氏の中でこのインフレに対する折り合いがついたんでしょうね。
しかし、いまだにMMT理論(現代貨幣理論)について誤解している、または意図的に間違った情報が流されているようなので、この理論とはいったいどんな理論なのか簡単に押さえてみましょう。
MMT理論(現代貨幣理論)とは?
MMT(Modern Monetary Theory) ってマスコミによって現代金融理論と約されてましたけど、最近は現代貨幣理論とちゃんと訳すようになりました。
財務省のレクチャーを、検証もせずに記事にしていたのでしょうか?
英語の原文は「Modern Monetary Theory」なのでどう考えても現代金融理論とは訳せませんし、もし現代金融理論だとすると「Modern Financial Theory」になるので、全く別物になってしまいます。
このブログでは、もちろん現代貨幣論として話を進めていきます。
で、現代貨幣論(MMT)を簡単に理解したいと思ったら、以下の三つのポイントを理解するだけであなたもすぐに現代貨幣理論(MMT)のエキスパートになれます。
その三つとは、
- 変動為替相場制の主権通貨を持つ政府は、財政的な予算制約に直面することはない。
- 全ての経済(および政府は)、生産と需要について実物的あるいは環境的な限界がある。
- 政府の赤字は、その他の経済主体の黒字。
一応、以上の三つを理解すればすぐに現代貨幣論のエキスパートです。
変動為替相場制の主権通貨を持つ政府には財政的な予算の制約がない
現代貨幣理論のランダル・レイ教授は「変動為替相場制の主権通貨を持つ政府にデフォルトリスクはない」と言っています。
もっと簡単に言うと、日本のような自国独自の主権通貨を持ち供給能力が充実した変動為替制の国が、お金がないからこの事業はできません、この支出はできませんとか言うことはあり得ないのです。
これに対して自国の供給能力が低く、自国で必要なものを生産できない、固定為替相場制の国(例:レバノンのような)を見てみましょう。
このような国々は、外貨で借金を行い自国通貨を高く保つことで、自国への供給(輸入)を満たさなければなりません。
しかし、外国からの借金は返さなければいけませんので、返済能力が無ければ当然デフォルトですね。
この財政的な予算の制約が無いということに対する反論として、財政支出を続ければインフレがひどくなると、下手するとハイパーインフレになるというのが一般的ですね。
確かに、ランダル・レイ教授も「政府支出が大き過ぎると、インフレや通貨安が起きる可能性がある」といっていますね。
その点に対する答えが、次のポイントにつながってきています。
全ての経済及び政府には需要と供給について限界がある
政府には財政支出の縛りがなく、いくらでもお金を供給することができるかというと、そんなことはありません。
需要と供給の関係において行う財政出動には、供給能力の限界という歯止めがあります。
つまりどういうことかというと、市場の供給能力をこえて需要を喚起させる政策をとってしまうとと大幅な供給不足による、インフレになってしまうということです。
簡単にインフレってどういうことかと説明すると、要は供給能力を何パーセント超えているかということなんですね。
基本的に政府は、インフレ率を2%まで引き上げるのが目標ですが、これは100しかないミカンを102人が求める(需要)ような状況を常に作り出すことです。
これが需要牽引型の、良性インフレといわれるものですね。
しかし供給能力がミカン100個分しかないところにお客さん(需要)が200人来てしまったら、当然供給能力の限界を超えてしまっているので、物価が大きく跳ね上がる。
つまり供給能力が需要に対して全く足りない状況を、供給不足による必ず悪性のインフレといいます。
そのため政府の国債発行による資金供給は、インフレ目標の範囲内で行うべきでなのです。
財政支出をすればハイパーインフレになるっていう批判もあるので、書いておきますが不可能ですね。
ハイパーインフレーションの定義は、インフレ率が毎月50%を超えることで、戦争や政治の激動によって供給能力が大きく棄損されたときに起きるもので、供給能力があるいわゆる先進国においてハイパーインフレーションは考えられません。
政府の赤字はその他の経済主体の黒字
別の言い方で説明すると、政府と国民はバランスシート上の貸方借り方の関係にあるのです。
つまり、政府が負債を増やすことで国民の資産は増え、反対に政府の負債を減らすと民間の試算が減るという関係なんですね。
多くの人たちが勘違いしているのですが、政府の財源は税金ではありません。
税金で徴収したお金を、予算の財源としているわけではないんです。
そうでなければ通常の予算発行プロセスである、徴税の前に予算を組んで支出をすることができなくなってしまいますね。
では税金の役割とは何でしょうか。
税金の役割とは
政府が負債を拡大することで民間の試算が増えるのであれば「税が税源」という主張は成り立たなくなりますね。
実は税金の役割は二つあるのです。
一つは、貨幣を通貨にする役割であり、もう一つはインフレを抑制するためにあります。
貨幣を通貨にする
貨幣を通貨にするとはどういうことでしょうか?
納税を考えてみてください。
税金は現金でしか支払うことができませんので、必然的に国が発行した貨幣が経済の物差しの役割を果たすことになり、結果的に通貨として流通することになるのです。
インフレ抑制
そしてもう一つの、インフレ抑制効果とはどう意味でしょうか。
MMT(現代貨幣理論)理解のポイント1で政府がお金を発行しすぎちゃうと、悪性のインフレ(供給不足型)を引き起こすと書きましたが、それを制御するのが税金です。
つまり、市中のお金の量を絞ることで適度なインフレ(需要牽引型)を保つ役割があるんです。
政府と民間の関係をバランスシートの貸方と借り方で見た場合、政府が徴税によって貨幣の量、すなわち自身の負債を縮小してしまうと、その他の経済主体の黒字も狭まっていくのは当然ですね。
徴税されたお金の行方
ちなみに徴税されたお金はどうなるかというと、消えてなくなります。
つまりバランスシート上の流動資産を使って、例えば、流動負債を返済すると、資産も借金も同時になくなりますよね。
イメージ的にバランスシート全体が縮んでしまったことになります。
反対に、バランスシート上の負債を増やせば、資産も増えることになります。
資本主義下において、政府を含む経済主体は赤字を増大させることで経済を発展させることができるわけで、そうでなけれは資本主義活動を展開することはできないのですね。
MMT理論(現代貨幣理論)への批判
イエレン前議長に限らず現代貨幣理論(MMT)を批判する人たちが必ず言うことの一つが、通貨を発行すると必ずハイパーインフレになるという説。
確かに通貨を発行しすぎれば、悪性のインフレを引き起こします。
しかしそれを抑えるノウハウは、経験値として蓄積されているはずですね。
例えば、利上げによる金融引き締め、増税による市中の通貨回収、通貨の発行量を絞るなどで十分対応可能です。
しかし、日本の場合今のところそれらのどれも必要ない。
下のグラフの通り、日本は1975年の時点から思いっきり負債を増やして、通貨を供給しているのですが、全くインフレになっていない。
むしろ、横ばいです。
このグラフを見る限り、政府が負債を増やして通貨を供給してもインフレにはなっていませんね。
理由は二つあって、最も大きな原因は消費税。
購買に対する罰則である消費税は、インフレ抑制税としても機能しますが、上のような状況で嬉しくないですが、もろにその効果が出ています。
そして、消費税を維持しながらインフレ率を上げるには、今以上に通貨を発行しなければインフレ率は上がらないでしょう。
しかも現在は、コロナ禍による需要低迷中なので国民にお金を配って需要を喚起する政策が必要なんです。
つい数年前までMMT理論を批判していた、イエレン氏もこのコロナ禍で勉強されたようですね。
バイデン新大統領による1.9兆円の財政出動を実際に実行する財務長官に任命され「大規模な財政出動が必要」と言っているので、お手並み拝見というところでしょうか。
現代貨幣理論(MMT)のまとめ
MMT(現代貨幣論)はお金についての事象を説明した理論なので、金融理論ではないということ。
そして現代貨幣論はとりあえず
- 政府の国債発行に限界はない。
- 国債の発行による需要の喚起は、市場の供給能力によって制限される。
- 政府が赤字を増やすことで、そのほかの経済主体の資産が増える。
この三つを理解しておけば、あなたはもう現代貨幣論のエキスパート。
現代貨幣論に対する批判記事を見たらそれが正しいものなのかどうかを判断できるかと思います。
参考までにこちらにも関連リンクを張っておきますので、この記事と合わせて読んでみてください。